2011年5月、シンガポールの5年に1度の選挙で野党が躍進しました。
…といっても、87議席中、5議席を獲得したに過ぎません。ただ、2006年の選挙は2議席。その前も2議席。また、選挙での与党の得票率は60%。さらに現職外務大臣が落選。この衝撃は大きく、結果、”最高顧問”であったリークアンユー(87歳)が引退することになりました。(右写真Wall Street Journal)
シンガポールは”明るい北朝鮮”と呼ばれ、”記名投票”で与党が独裁している、という噂を聞いたことがありましたが、実際、シンガポールの人に聞いてみるとそんなことはないよう。そこで、シンガポールの選挙制度を調べてみると、以下のようになっていました。
一院制。議席87。小選挙区9。集団選挙区14。この集団選挙区というのがくせ者で、政党で投票し、いずれかの政党5~6人がすべて当選するというもの。また、この選挙に出るにもお金がかかり、過去は選挙区に立候補すら出来ず、与党の人民行動党が当選するという状態でした。また、野党も1党でなく乱立。まるで中国の野党のような形だけのもののようでした。(中国の野党は共産党の指導の下活動しています。)
さらに、国民の間には、野党が通った選挙区は、政府の援助が後回しになるとも言われています。政府の予算は3兆円。ちなみにGDPは17兆円。18%です。日本も16%程度ありますが、内4割弱が国債償還、残り6割の内半分が社会保障。したがって5%程度が実際に奪い合うパイですが、シンガポールは年金はCDPといって強制確定拠出型。したがってその割合は非常に高いです。ちなみに、国民の8割が公営住宅に住んでいます。それだけ、政府に依存する生活を送っている国民にとって、政府支援がなくなる恐怖は大きいのでしょう。(右図Wikipedia)
そのような中、今回の野党の躍進。その背景には、世界的に広がる傾向があると思います。
1)まず、一人当たりのGDPがある一定の額(大体3万ドル程度)に達するまでは、豊かな人がより豊かになっても、貧しい人もそれに合わせて豊かになる。
2)ところが、この額を超えると、支出の中で必需品の割合が下がり、サービスを求めるようになる。米国やヨーロッパはこのころから移民を受け入れ、それらの仕事を行いサービスのコストを下げる。そして貧しい人の人口が増え始める。しかしシンガポールはここを人口の4割を占める外国人で賄っている。
3)ところが、今度は海外特に、中国、インド、インドネシアなどで安価な労働力のサービスや製造業が栄え、そちらへ労働がシフトする。すると、それまで仕事があった中間層までその競争にさらされる。そして貧富の差が増大する。
日本は90年代以降2)と3)を同時に経験し大きく貧富が広がりましたが、シンガポールは豊かな人が非常に豊かのため、その差はもっと大きく、ジニ係数は世界ワーストクラスです。
これらの貧富の差を背景に、世界中で、経済的に中間以下の層の支持を集める政党が躍進しています。シンガポールは華人が7割以上ですが、それでもマレー系、インド系が多く、この選挙で当選したAljunied地区のWP(労働党)の立候補者は5人中2人は華人ではありません。
おそらく世界のこの流れは、中国、インド、インドネシア、バングラディッシュなどの人口の多い、労働賃金の安い国がある程度発達するまで(たぶん一人当たりGDP1万ドル程度)、続くと思われます。
(右写真Reuters)