Bloombert Businessweekの12月19日-25日号に、Germany Hidden Riskと題する記事が載っていました。その内容は、見方によってはかなり衝撃的なものです。
http://www.businessweek.com/magazine/germanys-hidden-risk-12142011.html
簡単に言うと、「ユーロ圏の共通の決済システム(Target2) を通じて、ドイツ中央銀行=Bundesbankがヨーロッパ中央銀行(ECU)に対し、莫大な貸し出しを”自動的に”行っている。」というものです。
以下3つのステップにわけて説明します。
1)中央銀行を介した即時決済システム(RTGS=Real TIme Gross Settelment)
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最新の決済システムは、各銀行が政府中央銀行に口座を持ち、そこに一定の金額を預けることで、1件1件の決済を即座に行うというものです。(それまでは1日ごとにバランスを計算していたので、即時という言葉が強調されています。なおRGTSについての説明は下記日本銀行のサイトに詳しく載っています。)
http://www.boj.or.jp/paym/outline/expkess.htm/
この決済の仕組みは、2社の間の商品取引にも、金融取引にも使われます。
たとえば、A銀行に口座を持つ甲社が、B銀行に口座を持つ乙社からものを買った場合、以下のような流れで決済が行われます。①甲社はA銀行に支払い指示をする。②A銀行はその支払いを乙社の銀行であるB銀行にすると同時に③中央銀行に対し振り替えの指示をする。
これは、たとえば、甲社が乙社から国債などの金融商品を購入する場合でも同じです。
2)TARGET(Trans-European Automated Real-time Gross Settlement Express Transfer System)
実に長い名前ですが、上記赤字のRTGSが、自動的(Automated)に、ヨーロッパ諸国を越え(Trans-Europian)、行われる仕組み、というのが名前からわかります。
ポイントはこの仕組みは、各国の中央銀行(NCB=National Central Bank)経由でCCBM2(ECU=ヨーロッパ中央銀行決済の機構)を通じて行われるということです。
たとえば、ギリシャの甲社が商品をドイツの乙社から購入したとします。その場合に起こることは、①甲社はギリシャにあるA銀行を通じギリシャ中央銀行に支払いの指示を行う。 ②ギリシャ中央銀行はそれをECUにてTarget2の仕組みで決済する。 ③ECUはドイツの中央銀行に指示をする。 ④ドイツ中央銀行は乙社のB銀行に支払いをし、B銀行は乙社に支払いを行う。
これにて、甲社、乙社、A銀行、B銀行は問題なく即時に決算終了となります。ところが、ドイツ中央銀行はこの時点でECUに対し債権を持つことになり、ギリシャ中央銀行は債務を持つことになります。この中央銀行の間にECUを通じて債権債務が生じること、それを、Target Balanceといいます。
3)Target Balanceの急激な悪化
このTarget Balanceは通常時は、資金がバランスよく流動され問題はなかったのですが、国債危機が危ぶまれたころを境に急にバランスが崩れています。下記にドイツ、フランスの数字を変化を表していますが、ドイツ2007年くらいからドイツ1国の貸し出しが急上昇し、その額は、スペイン、ギリシャの借金額に匹敵する、5000億ユーロ(約60兆円)に達しています。
左から「ドイツ中央銀行の貸し出し額:出所Bloomberg」「2011年11月各国の貸し出し、借り入れ推定額」「フランスの2011年度の借り入れ額」(出所:Finantial Times)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/1a61825a-8bb7-11e0-a725-00144feab49a.html#axzz1gv2k4DCd
これはすなわち、もともとドイツの銀行(ドイツ銀行など)がギリシャなどの国債を持っていったが、それらを一方的に売る、すなわち資金が極端にアンバランスになっている、ということがわかります。
この「60兆円近い額のお金がユーロが崩壊するとなくなってしまう。それがドイツの動きを縛っている。」という見方もあります。もしそうだとすると、ドイツの政治的動きの背景が見えてきます。ただ、逆にこれがあるから、決済の仕組みが崩壊せずに金融が混乱していないという見方もあり、ドイツがヨーロッパでただ一国すでに強い立場を持っているということもわかります。いずれにせよ、今回のユーロ危機、どこから見てもドイツ次第です。