<2011年総選挙>
2011年6月トルコで選挙が行われ、憲法改正を目指す与党AKT(公正発展党)が50%の得票率で圧勝しました。しかし議席は3分の2に及ばず、その意味では目標に到達しなかったと言えるでしょう。
トルコで特徴的なのは、政党の背景が比較的はっきりいていることではと思います。赤がRPP(Republican People's Party 共和人民党)。西の一部の地域、すなわち、イスタンブール近郊、及び、イズミル(Izmir)近郊、そしてトゥンジェリ(Tunceli)(サザ人というペルシャ系少数民族が住む教育水準がもっとも高い州)。青は無所属だが、実際は、クルド系政党が支援している。残りの圧倒的に多くの地区がAKT(公正発展党)の勝利した地域。
もともと第一次世界大戦で負けて何とか独立を守ったアナトリア半島、そしてその中でも西の一部地域が政教分離を強く唱え、そして、ヨーロッパと統合しようとしていった歴史が見え隠れします。
今回の選挙は、AKTが勝利した場合、憲法改正を行おうとしていました。内容的には、軍(政教分離の守護者)の介入を防ぎ、大統領制度を強くするというものですが、究極的にトルコをイスラム国家としていく流れであることは間違いありません。
<AKT、軍と憲法改正>
上で述べた憲法改正の一つの目的は軍の政治への介入を制限するものですが、これは2010年の国民投票ですでに賛成多数で可決されています。トルコの軍は国父と呼ばれるケマルの時代(第一次大戦でトルコが破れ解体の危機を救った指導者。今の軍と野党第一党共和人民党-CHPにつながる)から軍の影響力が強いです。1980年には、「9月12日クーデター」を起こしその後、今の憲法を制定しています。従って、憲法に軍隊の影響が色濃く残るのは当然です。
また、ケマル時代から政教分離がトルコの国是で、軍も共和人民党もそれを持続することを望んでいます。AKTがますます優勢になる状況はすなわち、政教分離から、政教一体に近づくサインでもあります。そしてそれは、ヨーロッパへの離脱とアラブへの接近を意味します。ヨーロッパは、この憲法改正は民主化の一歩であり、同時にヨーロッパ連合へ入る進歩と喜んでいますが、本当のところどちらになるかはわかりません。
<ジャスミン革命とトルコ>
ジャスミン革命を起こした国々にとって、民主化の一つのモデルがトルコです。トルコの経済発展はすばらしく、曲がりなりにも議会政治が100年近く続いています。もちろん、アラブ諸国にとって、過去のオスマン帝国に支配された影が今もあるかも知れませんが、その発展はモデルとなるのではと思います。AKTがアラブに対する外交をどのように展開していくかは眼が離せない状況になっています。
<経済発展>
トルコの経済はほとんどが財閥に握られています。その財閥が自動車などの主要輸出産業で外資メーカーと合弁を行い、ヨーロッパに輸出しているという構図です。その構図を政府が崩すとは思えません。ただ、その経済発展の恩恵は西側都市部が多く、経済発展で豊かになる人と、政府を支える選挙基盤が別にある、というのは今後の矛盾として浮かびあがると思います。
もちろん、福祉政策を活発化させるかもしれませんが、それが財閥とどのように折り合いをつけるのか、あるいは外資にとってそれがコスト高につながらないかなども注目すべきポイントだと思います。
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000212/turkey20100331.pdf
<NATO、EU、アラブ連合、イスラエル、アメリカ>
トルコはNATO加盟国で、軍隊の人数はアメリカについで断トツ2位です。それは皆徴兵制度を採っているからで、徴兵を逃れているところを見つかるとその場で軍隊につれていかれるそうです。さらに、徴兵の間の給料はタバコ8箱程度の値段とのことです。だから、軍事費は突出しなくても、人数は多いということになります。アメリカなどの軍事費が人件費に多くとられていることを考えると、この差はいざというときに大きいです。国民国家として独立を果たした1920年の遺産だと思います。
トルコはEU加盟を目指しています。それは明らかに経済的な恩恵を目指すものですが、同時に、唯一のイスラム国家としてEUの中で独自の地位と影響力を保つことが出来ます。アラブが民主化し、経済発展が始まれば、トルコの位置づけはますます重要になるでしょう。
トルコは、アラブ連盟に入っていません。入っていないのはイランとトルコくらいです。
トルコは、イスラエルを間にキプロスを挟む形で海で対峙しています。イスラエルの軍備はそのほとんどがアラブ側すなわち東側に集まっており海側は希薄です。もし海から攻撃されるとひとたまりもありません。その鍵をトルコ軍は握っています。歴史的には、地中海を支配していた海軍の国です。普通にそういうことも考えていると思います。
トルコにとってアメリカは、上記の複雑な関係のバランスを変えてしまう存在だと思います。もちろんNATOのリーダーであり、EUの時に見方であり時に敵であり、アラブと利害が複雑に絡み合い、ユダヤ人はアメリカ最大の利益団体です。
こんなトルコは、おそらく今から5年くらいは眼が話せない存在になると思います。